少年と私~その④ | * 僕は駆け出し作家 *

少年と私~その④

* 1 * コチラ


* 2 * コチラ


* 3 * コチラ


* 4 *


「サックスやってるの?」
少年は私が不意に話しかけたもんだから少し驚いていた。なんだか初々しくて可愛い。って、何を新入社員をいじるお局さんみたいなこと言ってんだか…。
『え? あ、あ、はい』
「もう練習は終わり?」
『はい。今日はもう…』
少年はちょっと、いや明らかに不信感をいだいてる。―あんたは一体誰なんだ―、顔にそう書いてあった。しかし、私は構わず続ける。
「そっか、残念。聞きたかったな。私サックスの音色好きなんよ」
そう言うとようやく少年の顔が明るくなった。
『あ、音いいですよね。僕も。だから始めたんです。えっと―』少年は私にスッと手の平を向け、続けた。『―やってなさるんですか?』
私は慌てて首と手を横に振る。「いやぁ、私はやってへんけど、あの…知り合いがね(初対面で死んだカレがとは言えまい)。でも良くサックス奏者のCDを聞いてたよ。えっと―」私のカレはある海外の演奏者に影響を受けてサックスを始めた。もちろん部屋でよく一緒に聞いた。名前は、えっと確か…そう、「―マイケル・ブレッカーって人やったかな、知ってる?」
「あーー」少年は勢いよく首を縦に振った。『もちろん知ってますよ! へぇー詳しいんですね。でも・・・彼って亡くなりましたよね。ホンマ惜しい人を…』
私は一瞬、何故この少年がカレの死を知ってるの? なんて思ってしまう。バカだ。アホだ。
「そう…なん? 最近あんまり聞いてなかったから知らんかったわぁ。いつのこと?」

『最近ですよ。白血病で。その前も闘病生活でしたしね』

「そっか、そうなんや」ブレッカーの曲はあの時以来聞いていない。なぜなら・・・って言わなくても分かるか。

「君も、ブレッカーに影響受けてはじめたとか?」私は自然と死のテーマを反らす。
『僕はブレッカーちゃいますよ。彼のことはだいぶ後から知ったんです』
「じゃあ武田鉄矢とか?」
『それ真治でしょ。鉄矢て、僕は死にましぇ~んの人でしょ』彼は少しおどけて笑った。
私もアホな勘違いしたなと笑う。「あ、そっか、あはは。ごめんごめん。でも若いのによー知ってるなぁ」
『物真似とかでよく見たし、再放送もよくやってますからね。真司でも鉄也でもないですよ』
少年は何かを思い出すように空を見上げ続けた。『ここでね、この場所で聴いたんですよ』
え? 私は胸がざわついた。