少年と私~その⑤ | * 僕は駆け出し作家 *

少年と私~その⑤

* 1 * コチラ


* 2 * コチラ


* 3 * コチラ


* 4 * は コチラ



* 5 *


「ここって―」私は人差し指を立て、そのまま下に指す。「―ココ?」
もしかして少年はカレの演奏を聴いたの? なら、影響を与えたのはカレってこと?
『そうっす。ココで。衝撃っていうのか、かっこええなーって思って』
私はえもいえない気持ちになって鳥肌がたった。カレ意外にココで演奏した人は見たことがない。きっとカレだ。そんな悲劇的で衝撃的で感動的な巡り合わせなんてあるの?
私のざわつきなんて知るよしもない少年は、思い出にひたるような顔を見せている。そんなドラマチックな話って…、そんな事が現実にあるの? 

少年はスッと私に顔を向け続けた。

『えっと、確か2、3年くらい前なんですけどね』
なかった…。全然違った。カレの死後のことだ。思わず少年に、鳥肌を返してよと言いたくなる。
『ここで演奏してるの見て。めっちゃかっこよくて。僕もやりたくなって、でもそんなん買う金もなくて。だから学校に内緒で必死でお金貯めて』少年はヨシヨシとケースを撫でながら言った。『最近やっと買えたんですよ』
そりゃそうだ。カレが演奏していたのは、5年以上も前の話だ。いつまでも捕らわれすぎだ。カレ以外にもここで演奏する人がいても不思議ではない。この少年がそうであるように…。ふぅ、そりゃそうだ。

私は少年に気付かれないように小さく息を吐いた。
そこで少年は何かを思いついたのか、『あ、そうや』と小さく言うと、子犬のような瞳で私を見た。私はそこに吸い込まれそうになる。「ん、ん? なになに?」
『よかったら、一曲聞いてもらえないですか? まだ下手くそやし誰かに聞かせるレベルじゃないですけど』

あ、なんだそういうことか。情けない、ちょっと動揺してしまったじゃないか(さっきとは違う意味で)。私って案外単純なのかもしれない。
「聞かせるレベルじゃない~? でも周りにいっぱい人いるやん。ほら。ホラホラ」私は両手を広げ、辺りのカップルやカメラマンを指す。
『いや、そうなんですけどね。誰かに対して演奏するとなると、また違うんですよ』
「ふふ、そうやんね」そう、かつてカレも言っていた。私はニコッと口元を緩める。「いいよ、聞かせて」
『ありがとうございます! ちょっと待って下さいね。すぐ用意するんで』
なんだか可愛いな。夢のある若い子って純粋だな。
『あー、なんかめっちゃ緊張してきました』
「あかんあかん。いつかもっと沢山の人前でやるんやろー?」
『そうっすね。そうっす、そうっす』少年は自分自身を納得させるようにブンブンと首を縦に振った。





続く…