豊風と僕~その⑦ | * 僕は駆け出し作家 *

豊風と僕~その⑦

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『でも未練ってマイナスの感情やろ? なくなるんちゃうん?』
「やけどな、感情があまりに強いとアカンねや。正確に言うと今の世界はマイナス感情がなくなるんやなくて、忘れていくんやな。死んでからこの五年でどんどん感情を奪われてくんや。再生した瞬間はマイナスの感情を覚えてるだけや。こんな時は怒るとか、こういう時は悲しむとか。それに合わせてるだけや。だから感情が悲しいとかじゃなくて、記憶が悲しいって感じてるんやな」
ややこしいな『でもなんで奪われなあかんの? 負の感情も必要なもんじゃない? プラスはマイナスあってこそのもんやろ? なくす必要ないやろ』
「かもな。でもそれを俺らが言うたかてしゃーない。マイナスを奪うのは次の世界で争いが起こらん為でもあるし、前の世界に未練を残さん為でもあるんやな。昔は五年後とかじゃなくてすぐに再生してたみたいやねん。感情もそのままや。でも未練たらたらで次にいけんくて、間の世界の住人が多くなりすぎたんや。ジバク霊や。しかも次の世界でも争いが起こったんや。だから死んだ直後やなくて五年後の世界で蘇るようになったんや。その間に感情奪ったれってな」
『なにそれ? 途中で変更されるとかあるん? そんなんあり? 誰が決めたん?』
つっかかる僕を豊風はまぁまぁと制す。「あのな、だいたいお前の質問は常識染みてるねん。それは『宇宙は誰が作ったの?』とか『人間とか動植物が地球に存在するのはなぜ?』って言うてるようなもんや。仮にそれを作ったのが神様やとしたら、死んでからの世界を作っても何らおかしくないやろ? 理屈とかじゃないんやな」
僕はどうも納得がいかない。『だけど、生きてた時はそんな途中でのルール変更なんかなかったやん』
「やむを得なくなったんちゃうか? それとも嘘かやな」
『嘘?』
「そや。それを俺に教えてくれた奴も暇やったんかもしらん。だってな、次の世界に行ったら神様が二人いて、名前はマイケルと山田とか言うてたからな」
『なんやそのベタな名前は。それ絶対嘘やん』僕は思わず噴出しそうになるのを堪えて、呆れ気味に言う。
「やろうな。でもそんなんがあってもおかしくないねん。だいたい俺らがこうやって再生してること自体、死ぬ前の常識とは違ってんやから。そやろ? 神様が一人なんて誰が決めたんやってことや」
んーー、ごもっともです。僕は言い返せなくなる。
「俺が言いたいのはそこちゃうねん、五年も経ったら死んだ奴のことを想う奴は確実に減ってるわな。そら気持ちは残るで。でも薄れてる」
豊風は花瓶の花を差す。「でもこの花はキレイに咲いとるわ。それはそんだけお前を想ってる奴がおるってことちゃうか!? 親か? 彼女か?」
…どっちだろ。『でも、たぶん…』
「いやいや、それはどっちゃでもいいわ」豊風は僕の話を遮る。
『なんやそれ』
「俺が密かに思う五年後再生の理由があるんや」豊風は含み笑いをしながら続ける。全然密かじゃない。「五年も経ってたら実家の自分の部屋の引き出しの奥とか、ベッドの下に隠しとるエッチなビデオや本も処理されとるやろうからな」
『なんやねんそれ』 思わずつっこんでしまう。もうなんだか豊風のペースだ。
「アホか! お前、すぐ再生してみーや。生きてた世界で気になることとかやり残したこと探したら、いつかそこに行き着くやろ? ほんで実家行ったら、おかんが自分の部屋を物色しとるわけや。『あかん、そこ開けたらやばい。おかんやめてくれ~』ってなるやろ」豊風はその場を再現するかのようなオーバーリアクションで示した。
全くおかしな奴だ。まぁ、『確かに。エロ本はさておき、見られたないものは誰にだってあるか』僕は妙に納得してしまう。ん? いや、まてよ。『でも、それって結局見られてるってことやん』
「そやな。でも、その現場に遭遇してないことがミソや。その、あのビデオを見た時のおかんのリアクションとか見たら、もーー絶対未練残りまくりや。言い訳しにいかなあかんやん」
あかんやんって、一体どれほどマル秘なビデオなんだ…。

「まぁ、そういう時の為に、俺みたいな案内人がおるんやな」豊風はしみじみと言う。

『それさっきもいうてたな、もっとまとめてちゃんと説明してや』

豊風は、ハイハイと面倒くさそうに頷く。「そやな、じゃあ裸の女のわけからいこか」

『うん、そうして』

…ふぅ、やっと本題だ。



いや、これが本題なわけないか。あれ、本題は何だっけ? まぁとりあえず裸からでいいや。



続く…