豊風と僕~その⑥ | * 僕は駆け出し作家 *

豊風と僕~その⑥

豊風と僕 ①~⑤は コチラ



* 6 *


『あれっ』辺りを見回した僕はある違和感をもつ。
「なんやねんな、まだ何かあるんかいな」豊風は面倒くさいフリをする。
『いや、あそこにあった店がないねん』僕は彼女の欲しがっていた鞄が売っていた雑貨屋を差す。
続け様、その対角線上にある道を差して言う。『それにここにも信号なかったし。ここが事故現場のはずやのに。信号なんてなかったのに』
豊風はなぜかニタニタしてる。僕は構わず辺りを探索する。
すると信号機のできた横断歩道の路肩に、花の束があるのを見つけた。近づくと、丁寧に花瓶に添えられた数種類の花が、色とりどりに咲き誇っていた。
これって…? つまりそうゆうことか? 自分自身に添えられたであろう花を見るのはなんだか奇怪だ。
「おいおい、お前…。よっぽど誰かに愛されてたんやな。枯れてへんちゅうことは、最近置かれた花やろ」覗き込むように豊風は言う。
ん? ―よっぽど愛されていた―とはどういうことだ?
僕は振り返り尋ねる。『こういうのを自分で言うのも変やけど、花を添えるくらいそんなにおかしないやろ?』
豊風は人差し指を左右に揺らしながら、チッチッチと舌をうつ。豊風は風貌も行動も化石級だ。
「何言うてんねん。人間なんて案外冷たい生き物やで。どんだけ悲しいことがあってもだんだん忘れていく。そら、そうじゃないと生きていけんけどな。だからいずれ、枯れた花をいつまでも添えとけるようにもなるんや。そういえば最近お墓参りいってへんわ~って日常会話の中でシラッと言えるんや。でもこの花はまだ新しいやろ。いまだ強くお前を思うとる証拠やんけ」
言いたいことは分かるが…、『いまだにって何? 俺はたった今死んだとこやん』
豊風は眉間に皺を寄せる。「おいおい、分かってなかったんかい。はじめに言うたがな。五年後やーて。お前が死んだのはさっきやないで。もう五年も前や」
五年? あぁ、そういや言っていた。『なんや、五年後ってそのことやったんか。そっか、だから雑貨屋も信号も。ふーん。でもなんで五年なん?』僕は相変わらずの軽い口調で言う。
「まぁ、死にました、はい蘇りました。って、そんな簡単に再生できひんちゃうかな? よ~知らんけど」
『ここまできて知らんてなんや。自分案内人とちゃうん?』
「そんなようなもんやけど、そんな詳細まで知らんわ。あっち行ったら誰かに聞けや。でもやで、仮にすぐ再生するとして、お前はどうしたい? 死んだ直後の世界なんか見たいか? 葬式とか見にいって、自分の為に泣いてる奴を見たいんか? もしかしたら笑っとる奴もおるかもしれんで。保険金がどうとかで揉めてるかもしれん」

豊風は空を指す。「未練が残るとあっち行かれへんからな」

…未練か。僕にはないかな。

「まぁ、その為にも俺みたいな案内人がおる訳でもあるんやけどな」

僕は思う。豊風は回りくどい。

続く…