豊風と僕~その④ | * 僕は駆け出し作家 *

豊風と僕~その④

* 1 * コチラ


* 2 * コチラ


* 3 * コチラ


* 4 *



夜が明け再び街に光が差す。夕焼け・街灯・朝焼けが同じように僕を照らすけど、やっぱり影は落ちなかった。
一晩、その場を全く動かないでいた僕だが、ようやく思い立ち、とりあえず事故現場に行ってみることにした。

眠いという感覚はなかった。怖いという感情もなかった。ただなんとなく歩きたいと思い、どうせなら自分が死んだ場所にでも行こうと思ったんだ。


とぼとぼ歩き続けると、丁度事故の現場へ続く道にある公園にさしかかった。そんなに広くはないが中央が丘のようになっていて、子供の頃はそこから見える景色を少し誇らしげに眺めていたのを思い出す。

僕はそこへ向かう木で作られた階段にさしかかる。見上げると、丘の先には昨日と変わらず青く澄みわたる空が見えた。足が止まる。そこに果てしなく広がる空はただただ広く、死んでしまったことさえなんだかちっぽけに思えた。あぁ、こんな風にぼんやりと空を見上げたのはいつ以来だろうか。たまにはいいもんだなと思う。今更かもしれないけど。
そろそろ行こうかなと、足を踏み出そうとした時、ふいに何かが横切るのが見えた。ん、なんだあれは? 僕は目を凝らす。鳥? 飛行機? いや、人間だ。女の人だ。しかも、服を着ていない。なんとまぁ、裸の女性が空を飛んでいるではないか。あの色合い…、うん。確かに裸だ。いや、肌色の服を着ているだけかな? ていうかそれ以前に空飛んでるし。どうなってんの?
女性はこちらには気付かず、フワリフワリ空の海を漂い、そのまま太陽の光と重なり、消えていった。僕はそれを唖然と見ていた。顔は確認できないが、スラッとした若い女性だ。しかも裸…。ラッキーっていやいやいやいや、なんだそりゃ。どんだけ冷静な感想言ってんだ。空を飛んでいるんだぞ。もうなんか色々無茶苦茶だな。はは、もう笑うしかない。フフフ。僕は何だかとてつもなくおかしくって、どうせ誰にも聞こえないのをいいことに大声をあげて笑う。フハハハハヒフハハハアハハ―。
とその時、「どや、すごいやろ」突然後ろから男の声がする。僕は慌てて振り返る。豊風だ。
あ、そうだった。こいつには聞こえるんだ。
「アンラッキーってやつやな。あの女、はよー向こう側いきたいやろうな。あっ、でも羞恥心ないからそんなん思わんか」豊風は嘲笑うかのように裸の女性の行く先を眺めると、スッと僕に目を向け、「どや、理解したか?」と言った。
理解って何をだ? 『裸を?』
「アホか! このド変態! 死や。お前が死んだっちゅーことや」

『あぁ、なんやそれか。死んだんやな、俺は。なんとなく分かるよ』僕はあっさり答える。
「そういうこっちゃ。案外早かったな、上出来や」豊風はポンと僕の肩を叩く。
『で、なんで裸? しかも空飛んでたし。そういや昨日、自分も飛んでいってたし。説明してちょうだいや』
「また裸のことかいな。まぁ順番に説明したるから。ところで、お前はどこ行こうとしてたんや?」
『事故現場や。俺はトラックに跳ねられたん。そこに行ってみようかと』
「なるほどな。なるほどなるほど、分かりやすい!!」豊風はビッと僕を指差し続ける。「よっしゃ、じゃあそこ向かいながら話たるわ」
『そうしてや。じゃあとりあえずさっきの裸の―』
「またそれかい! それは後や後。はい行った行った」
豊風は僕を促した。


それにしても、何で僕はこんな冷静なんだろうか? 死んだというのに。目の前には数十年前に流行ったようなイデタチの、靴も履いてない白いソックス姿の変な奴がいるというのに。

しかも、僕はすでにこの世界を生きようとしてる。生きるという表現もおかしいんだろうけど。。。




続く…